●本日は、「深草庵」に東京からの来賓(といっても今回は、実家のある九州の長崎からこちらに見えました。)をお迎えした。日清オイリオの西田さんだ。西田さんは、長年研究開発部門で、油脂の吹きつけ技術を応用した畑作用の紙マルチの開発に尽力されてきた方である。現在は、それまでの自分のやってきた仕事を普及させるために営業部門に移って、自分の開発した商品の売り込みに励んでおられる。まさに、「死の谷」http://www.jagrons.com/archives/2007/10/post_142.htmlに橋をかけんとされているところで、志は私と同じ、「ブリッジ・ビルダー」である。
●西田さんは、ちょうど一年前に園芸学会で知り合いの研究者の方から紹介いただいた。その数ヶ月後に、わざわざ、私のほうれん草畑「スピナチ・ガーデン」(三重県津市)にいらしてくれた。そして、ほうれん草の茎の糖度を測定した汁を舐めて、びっくりして、そのほうれん草を小さな段ボールにぎゅうぎゅうに詰めて、奥様のおみやげにと持って帰られたことを思い出す。あのとき、もう一つ大変印象深いことを聞いたことを思い出す。「研究者の皆さんとお仕事をすると、その効果が明らかとなり、大変嬉しい。しかし、その結果が学会発表や論文になっても、商品が普及しなければ、事業としては評価はゼロに等しい」と。そういうわけで、組織を飛び出して、それまで開発してきた技術の事業化に挑戦しはじめたころ、言い換えれば、「死の谷」に橋をかけようとしていたころの私を訪ねてきてくれたのである。私は、少しでもこの資材利用技術普及の力になりたいと考えている。
●西田さんとお会いした園芸学会、先月も香川で開催されたが、一つ強く感じることがある。全くと言っていいほど生産者レベルの人が参加していないのである。私が学会にデビューしたのは、1995年のことである。当初は、そんなものかと思っていた。しかし、海外の研究集会などに積極的に参加している元同僚の言うには、海外では、生産者レベルの人が当たり前のように学会などに参加して、情報収集しているというのである。そういえば、同じ応用科学である工学では、いかに地震に強い建物を造るとか、環境に優しく燃費のいい車を作るとか、世の中の役に立つ技術が、生産現場レベルでの技術開発の活性が高く、研究と生産現場の溝が少ないように感じられる。日本の農業技術の研究レベルは世界でもトップクラスだと言われているが、こと農業の生産現場の活性は低く、食糧自給率38%であることが、国会でも取り上げられて議論されていた。農学も工学と同じ応用科学、現場で役立ってなんぼのものであることは一緒である。もっと、園芸学会のような場が、科学と生産現場の架け橋になるような働きに力を入れると同時に、生産者レベルの人間が、これに応える形で積極的に学会に参加するような風潮になったら、日本の農業は、もっとスピード感のある産業になることは間違いないと思う。「ブリッジ・ビルダー」の使命は大きい。