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中村浩さんを偲んで

 
●私の研究所時代の恩人で、野菜・茶業試験場長、農業・生物系産業技術研究機構理事を歴任された中村浩さんが、先日、脳腫瘍のため、東京の慶応大学病院で亡くなった。享年66歳。若い死であった。
●思い起こせば、平成6年の春、人事院の国家T種試験という試験をクリアした私は、大学の恩師である高橋文次郎教授の薦めで、野菜・茶業試験場を職場訪問した。その際に試験場を案内して頂いたのが、後に私の直属の上司となる吉岡 宏さん(現、野菜茶業研究所長)であった。吉岡さんに連れられて挨拶に伺った生理生態部長室に見えたのが、当時、生理生態部長の中村さんと天野正之花き部長(のちの野菜・茶業試験場長)であった。部長室では、両部長に、面接の練習としてここで、自己紹介してみなさいといわれて、大学時代に取り組んだサークル活動(大学から土地をかりていもを作って、学祭ではそれを加工した蒸しパンでぼろもうけしたお金を一晩で使ってしまった話しなど)の話しなどをした記憶がある。後に、私は、この生理生態部に配属になることになるが、この「面接の練習」が人事に影響したとのことを後に知ることとなる。
●生理生態部、作型開発研究室それが私の配属先であった。この研究室は、新しく設立された研究室で、バリバリの現場志向の研究室であった。近隣のキャベツの産地に出向いて現地実証試験をする。これまでの国の専門場所(基礎的研究をする研究所のこと)として、このような研究をすることはこれまでに例がなく、周りの研究者には、「作型開発研究室のやっていることは研究ではない」とか言われることもあった。こういった向かい風に対して、中村さんは常に私たちを勇気づけ励ましてくれた。また、吉岡室長からは、研究の「いろは」を教えていただき、これを基礎に私独自の研究スタイルを身につけることが出来た。「セル成型苗を利用したキャベツの省力化・斉一化栽培技術の開発」、この研究で、私は千葉大学から博士号を頂き、そして、園芸学会賞を頂くことになる。これは世の中に研究として認められた証である。中村さんとの出会いが現場志向の私の研究スタイルの原点である。この視点は、ジャパン・アグロノミスツという私の社名にも表れている。
●中村さんにお世話になったのは、仕事のことだけではなかった。津に来てまだ間もない頃、「日本の伝統文化を少し勉強してみないか」と誘っていただいたのが、謡曲。「能」の世界である。観世流の増村先生の出稽古に1年半ほどお世話になった。研究に打ち込むため、短期間だけの勉強だったが、能には、観世流・宝生流・金春流・金剛流・喜多流の5つの流派があって、津の藤堂藩は喜多流であることや、能面についての知識を得ることが出来た。こういった自国の文化への造詣を深めることは国際人になる上でも必須の要素だと感じている。
●私が、これまで取り組んできた研究を自分の事業として生かしたいと考えるようになったとき、すでに退職されていた中村さんは私が組織から離れることに強く反対した。ずっと研究所にとどまって欲しかったようである。最後に中村さんにお会いしたのが東京であった。あれから2年、私の活動も少しは進展を見せ、そろそろ中村さんに現状を報告しようと考えた矢先の訃報。大変残念である。
●岐阜県瑞浪市で2日(18時〜)に行われた通夜に参列してきた。会場に入って何気なく座った席。そこは、親族の席であった。私はそのまま親族の方々と一緒に深く故人の冥福を祈らせていただいた。通夜では、奥様とご家族の方々、それに親族の方々とお話しする機会に恵まれた。その中には、生前の中村さんとの話題の中にでてきた、世界を股に掛ける鯉師で鯉一筋150年のKATOの加藤さんともはじめてお会いした。日本古来の観賞魚が好きな私は、「釣りはへらブナに始まりへらブナに終わる」だが錦鯉は「紅白に始まり紅白に終わる」といわれることや、錦鯉の頭の緋色による見た目の力強さについて加藤さんと話が弾んだ。今度じっくり、加藤さんのところの錦鯉を観に行きたいと思う。
●人生で出くわす出来事には、必ず何か意味がある。今回の中村さんの訃報によって、私は現在の私のバックボーンを再確認する機会を得た。また、新しい人との出会いを得たように思う。中村さんを慕うもの同志がまた新しい繋がりを持つこと。これは中村さんが、私たちの心の中に生き続けていくことの証であり、私たちにとっては、中村さんの残してくれたチャンスであり、新しい物事の始まりでもあると思う。今回の訃報は残念なことであるが、この出来事を正面から受け入れて明日への希望に繋げていけたらを思う。

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2008年01月03日 00:37に投稿されたエントリーのページです。

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