「農業現場からの情報発信」
◆2006年の秋、三重県津市安濃町で50aの農地を借り、生産者としての活動を開始した。そこで京都で研究開発に取り組んだホウレンソウの移植栽培を実践した。07年からジャパン・アグロノミスツ(「日本の農業技術者たち」の意味、通称名称Jagrons、ジャグロンズ)を立ち上げ、流通分野のスタッフを迎え入れて翌年法人化。地元のIT企業の社長との出会いをきっかけに独自のブログを開設し、情報を発信し続けた。
◆ITを使った情報発信は、自分の活動を多くの人に伝えるのには効果的だった。ちょっと珍しい私の経歴、私がつくる「益荒男ほうれん草」という強烈なインパクトのある野菜に関心が持たれ、地域のケーブルテレビ、東京や名古屋のテレビ局、それに新聞・雑誌など、多くのマスメディアに取り上げられた。
◆それまで活動してきた研究分野では、情報に対して最優先に求められるのは「正確さ」であることは言うまでもない。しかしメディアが情報に対して最優先に求めることは「わかりやすさ」であり、「正確さ」はその次になることも少なくないように思えた。おそらく、専門知識を持ち合わせていない人々に情報を伝えるのには最も効率的であるからだろう。
◆さて、話はがらっと変わって私の農業経営の話題。農業は1人でやると、効率が悪い。2人でやるとつくるだけ。3人だと販売にも力が入れられる。4人だと交代で休暇が取れる。5人以上だとサボる人がいても回る。
◆現在の私が考えるジャグロンズ式ミニマムユニットシステムは私の理想とする農業経営モデルである。その概要は、経営主体は3名程度、あとの労働力はパートなどで補い、運営メンバーには研修生を1、2名参加させ、実践の中で人材を育成していく。
◆起業後数年間の頻繁なブログ更新によって、多くのジャグロンズ参加志願者が現れた。その中の数人をスタッフに迎え入れ、燃える男たちによって熱血会社運営が始まった。ところが、「燃える男」は大変疲れる。私だけでなく、農業志願生のほとんどは、「燃え尽きて」ジャグロンズを去っていった。
◆こうして人材管理面での会社運営は思い通りにはいかなかった。しかし、一見ピンチのような状況下で私は、会社を成長させることができた。不思議なことにスタッフの人数が減っても生産性はそんなに落ちなかった。生産現場でイノベーションが生まれていたのである。私はピンチの状態で力を発揮するタイプのようである。
◆イノベーションがうまくいったら、やはり次は人材育成だ。諦めてはいけない。私は、なぜ、多くのスタッフが「燃え尽きて」しまったのかを考え、スタッフと私の考え方のベクトルの違いによるものであることに気づいた。とくに技術的情報に関して言えば、これまでの一般的なスタッフは、「わかりやすさ」を求めてくるのに対し、私は「正確さ」が重要だと考えていたのである。この気づきは、その後の人材育成に大いに生かされることになる。
★本文を執筆する機会を与えてくださった電経新聞 北島 圭 編集長に感謝します。(2017.4.29 藤原隆広)
※本文は、掲載時の文章に一部加筆修正を加えております。