◆三重県産松阪牛(まつさかうし)は、子牛を兵庫県産の子牛(但馬牛)を松阪で育てて(肥育という)生まれることをご存知だろうか。

◆子供のころ、巣から落ちてきたツバメやスズメの雛を拾ったことがあるだろうか?予備知識なくしてあれを育てるのは大変難しい。

◆さて、今年は、三重県のほうれん草を早めに切り上げ、枝豆の生産に力を注ぐため、3週間ほど早く秋田に北上した。毎年何か新しい試みにチャレンジするのがジャグロンズ流。

◆今年は、三重県で枝豆の種をまき、ある程度まで育てて、トラックで陸送した。そしてこれを秋田県の農場で定植する形で、松阪牛のような秋田県産の枝豆「美郷のうさぎ」(秋田県内流通ブランド)と「月兎豆」(県外向け産地直送ブランド)を生産する。

◆それともうひとつ、今年の春から、研修生スタッフの淡路卓斗君が、4年余りの研修を終え故郷秋田県能代市二ツ井に農業の会社を設立し、独立の1歩を踏み出した。

◆淡路君は、18歳まで秋田県で育ち、東京で4年間生活した。その後、ジャグロンズの門をたたいて4年間、三重県津市に拠点を置きながらも三重県と秋田県を2対1の比率の期間で往復する「渡り鳥農業」の現場で頑張りました。

◆淡路君は、生まれ故郷に、8年ぶりに帰り、両親はじめ、親類の協力も得て、これから経営者への第一歩を踏み出す。研修生を、ふるさと、そしてご両親の元へ還すことが出来て本当によかった。

◆日本の農業の未来を担う農業の担い手を育てるということは、私にとって、落ちた小鳥の雛を育てることに等しいくらい難しいことだった。私は、過去に2回、「雛を育てる」ことに失敗しているからだ。過去の失敗の轍を踏みたくないといった気持ちから、ジャグロンズでの、研修生の受け入れは、成人であっても、両親の賛成または同意、結婚している場合は配偶者の同意を得ることを必要条件としている。

◆この4年間で、何とか雛を羽ばたける寸前まで育てて、進むべき「群れ」の中に還してやったようなすがすがしさを感じている。私も研修生も、共に、研修生のご両親の理解なくしては成立しなかった。あらためて、淡路君のご両親に感謝したい。

◆私は、3人目の新卒研修生を農業者としての「子牛」または「苗」として、ジャグロンズの生産現場で育てて、農業経営者へのきっかけを作ることが出来た。しかし、これまでのことを振り返ると。農業経営者は、誰かに育ててもらうようなものではないように思う。

◆人間、なるようにしかならない。研修生個人の能力と強い意志があって、初めて私たちはそれをサポートできるのだ。神宮のような神聖な場所には何かがあるというが、むしろそこには何もないような気がする。それはむしろ白いキャンバスに似ている。それぞれの経営者が、創造力を発揮して「白いキャンバス」に自分の絵を描いて行くしかない。

◆淡路君もこれまでよく頑張った。これからは、「絵を描く」ことを楽しんでほしい。思い通りにいかないことがあってもそれはチャンスだ。精一杯「もがいて」ほしい。もがかない人に手を差し伸べてくれる人はいないし、協力してくれる人もいない。もがいてもがいて、そして、自分自身で成長していってほしい。

◆秋田県の冬は私たちが得意とする土地利用型農業には不向きなため、淡路君は「成鳥」として、秋からまた三重の「安濃津農園」でのほうれん草作りに合流することになっている。「2匹目の渡り鳥」の誕生。秋からは、また違った関係で新しい試みに挑戦していきたいと考えている。

※↑秋田県仙北郡美郷町の東部に位置する真昼岳(2019年4月19日撮影)